最近、一般歯科医院でもマウスピース型矯正装置(商品名:インビザライン等)を用いて矯正治療を行っている現状が見受けられます。しかし、矯正治療そのものをよく理解していない術者が、歯の動かし方を理解しないまま装置を患者に与え、その結果、治療がうまくいかないという話を時折耳にします。日本矯正歯科学会のホームページにもマウスピース型矯正装置による治療についての見解を掲載しています。日本における歯科治療関係の訴訟で、昔はインプラント治療に関するものが多かったのですが、最近ではこの装置に関する訴訟の方が多いと聞きます。

そもそもこの装置はどのような装置で、この装置を使うとなぜ歯が動くのでしょうか。まず、この装置を作製するためには、歯冠や歯根のデータを口腔内スキャナーやCTでデジタル情報として取り込み、このデータを技工所へ送ります。そこで技工物(マウスピース)を作製してもらいます。これを患者さんにお渡しし、治療を進めていくということになります。この装置でなぜ歯の移動ができるのかと言いますと、まず、デジタルデータから現在の歯の並び、かみ合わせをPC上で再現します。この噛み合わせの状態から目標の噛み合わせの状態に向かって少しずつ歯を移動し、その歯の動きを組み込んだマウスピースを作製します。ですので、目標の状態になるまで数十個のマウスピースが必要になります。最初のマウスピースから、次のマウスピースに交換するのは、今まで使っていたマウスピースで歯が予定の位置に移動していることが前提になります。これを繰り返して嚙み合わせを仕上げていきます。このことを甘く考え、また判断する能力がなく、十分に歯が移動しきれていない状態で次のマウスピースを渡して交換していくと、結果は自ずと惨めなものになります。ここで問われるのは、正しい治療計画、ゴール設定が立案されているか、計画された歯の動かし方に無理な動きはないか、今使っているマウスピースが目標としているところの咬合状態と、今目の前にある患者さんの咬合状態が一致しているのか、装置の効果がしっかりと現れているのか、反作用の良くない状態が出ていないのか、等を見極める能力であり、もし具合の悪い状態だったらそれに対応できる臨床能力であります。

大学歯学部を卒業し、以後歯科矯正臨床を44年仕事として携わってきましたが、身にしみて感じることは、矯正治療というものは、一つの症例を治すのに、保定も含めて長い年月が必要なこと、またこの事が他の歯科治療と絶対的に異なるということです。治療能力というものは、一つの症例を治すごとにレベルアップするもので、矯正治療の場合は、そこそこの治療能力を身につけるのには数年の時間が必要かと考えます。それに加えて、矯正治療ではいろいろなアプローチの仕方があります。例えば、歯の表側に装置をつけて行う場合や、裏側につける場合や、今テーマとなっているマウスピース型矯正装置で行う場合などです。厄介なことに、これらの装置を使いこなすようになるには、やはり数年という単位の時間を要します。こういう事情があるため、患者さんが安全に、安心して矯正治療を受けられるように、認定医、専門医制度が必要になっていくのです。

令和6年6月より、当院で認定医によるマウスピース型矯正装置(商品名:インビザライン)を用いた治療を行うようになりました。患者さんに、安全で、安心な治療が提供できると自負しております。関心のある方は、一度話を聞きに来ませんか。お電話お待ちしています。