東海地方のある県で矯正治療を始められ、今回中学進学のため奈良県で寮生活を始められる患者さんが、当院に転医し治療継続希望で先日初診相談に来られました。
前医での初診の状態は、図―1を見てください。その当時、上下の前歯の叢生を気にされて治療を始められ、今回図―2の状態で当院に来られました。
図1
図2
これだけだと、前歯の叢生は取れ直っていると判断されます。そう、直ってはいます。それで、持参された、前医が書いた治療継続依頼書を読んで、唖然としたわけですが。その理由は、第1に、下顎の第2小臼歯が先天的欠損している(生まれつきない)こと。第2は、患者さんが既に支払った治療費の額、でした。

まず、治療内容についてお話しします。前医はこの前歯の叢生を治すために、上下歯列を側方拡大しその後歯面にブラケットを接着し歯を並べています。そもそも叢生という状態は歯がきれいに並ぶのに必要な場所が不足しているために起こりますから、これを治すには何らかの方法で新たに場所を作らなければなりません。その一つの方法として側方拡大があるのですが、この症例では第2小臼歯が先欠しています。という事はこの小臼歯の生える場所に将来大きな空隙という場所が存在することになりますから、これを利用して叢生を改善すればいいのであって、側方拡大などする必要はなかったという事になります。一方、上歯列に関しても、下顎の小臼歯が先欠しているのであれば、たいていの場合、将来上顎の小臼歯を抜歯することになりますから側方拡大をする必要はなかったという事になります。では、どうすればよかったのか。この症例の場合は、装置としてはブラケットの装置を上下に装着するだけで済みます。治療方法としては、歯列の横に残っている乳歯の隣り合っている面を少し削って空隙をつくり、ブラケットの装置で乳歯を動かし、乳歯間にある空隙を前歯の方に移動しこの空隙を利用して前歯をきれいに並べる、という事になります。治療期間1年未満です。

次に、治療費についてお話しします。前医の医院での治療費の設定は、治療継続依頼書によりますと、「一つの装置がOO円」となっています。具体的には、1装置15万円の設定になっていました。という事は、依頼書にも書いていましたが、上下で合計四つの装置を使っていますから、15×4で60万円、患者さんは支払っていました。もしこの治療費の設定で、小生が考える治療方法で行えば、装置は二つしか使っていませんから30万円になります。さらに言いますと、このホームページの治療費案内のページに、当院における治療費の設定を載せています。標準治療で当院では総額60万円、この症例の場合は、第1期治療にあたりますから、総額の40%で24万円という事になります。

初診相談の時、今後当院で治療されるという事ですので、オブラートにくるんだような言い方はできません。治療方法についてはありのままに患者さんの母親に、上に書いている内容のお話ししました。患者さん本人もかなりショックを受けておられました。次回診断説明時、父親が来られ当医院での治療費についても話さなければなりません。誤解のないように丁寧に対応したいと思っています。
同じ矯正治療と言っても、治療方法、治療期間、治療費どれをとっても、術者によってまちまちです。車を購入する場合、同じ車種であればどこで買っても車の性能は同じですから、あとは購入価格の比較になるのでしょうが、矯正治療の場合は全く違うという事を肝に銘じておいてください。これが実際の状況です。初診相談を受けている時に、すでに複数の医院で相談を受けられており、治療費だけで判断されているのかなと感じることがよくあります。こちらとしましては、説明が足りなかったかなと反省しなければならないのですが、患者さんの方も、お金のことは大事ですが、矯正治療ではもっと重要なことがありますから、それを聞き逃さないようお願いします。