最近、当院に初診で来られる患者様の中で、

『マウスピース矯正治療を受けたが、治らなかったので、ブラケット矯正を希望します』

ということを言われる方が増えています。

私は必ずそういった患者様に、どういったマウスピースを使って治療を受けたかを伺います。

そうすると大概の方は、歯科医師を介さない(もしくは、歯科医師が作ると謳っているだけの)格安マウスピース矯正の商品を挙げられます。

近年、SNSや広告で「短期間・低価格でできるマウスピース矯正」を見かけることが増えました。

これらは一見、手軽で魅力的に思えるかもしれませんが、歯科医師が直接診察・管理しないマウスピース矯正には大きなリスクが潜んでいます。

対照的に、インビザラインなど歯科医師が行うマウスピース矯正は、医学的根拠に基づいた安全な治療です。

両者の違いを理解することは、ご自身の歯と健康を守る上で非常に重要です。

 

1. 診断と治療計画の違い

 

歯科矯正は単に歯を動かすだけでなく、顎の骨格、噛み合わせ、歯周組織の健康状態など総合的な診断が不可欠です。

インビザラインなどの本格矯正装置では、歯科医師がレントゲンや口腔内写真、精密な型取りをもとに一人ひとりに適した治療計画を立てます。

一方、歯科医師を介さないマウスピース矯正では、十分な検査を行わずに画一的なプランで進められることが多く、根本的な問題を見落とす危険があります。

 

2. 対応できる症例の範囲

 

インビザラインなどの本格矯正装置は、軽度の歯並び改善から外科矯正が必要な重度症例まで幅広く対応できますが、専門的な知識と経験が必要です。

格安マウスピース矯正装置では「前歯の見た目を整える程度」に限定され、奥歯のかみ合わせや骨格のズレは改善できません。

その結果、見た目だけは整っても、噛みにくさや顎関節への負担が残るケースが少なくありません。

 

3. 治療中のフォロー体制

 

インビザラインなどの本格矯正装置では、治療中も定期的に歯科医院でチェックを受け、歯の動きや歯肉の状態を確認しながら必要に応じて治療計画を修正していきます。

一方、歯科医師を通さない格安マウスピース矯正装置では、十分な経過観察が行われず、歯が思わぬ方向に動いたり、歯根や歯肉にダメージが起こっても気付かれないまま進んでしまうリスクがあります。

 

4. 健康被害の可能性

 

誤った矯正は、歯の動揺・歯根吸収・歯肉退縮・噛み合わせ不全・顎関節症など深刻な問題を引き起こすことがあります。

これらは治療をやり直しても完全に回復できない場合があり、一生の後悔につながる危険性があります。

 

マウスピース矯正は「見た目をきれいにするための美容サービス」ではなく、医学的根拠に基づいた歯科医療行為です。

専門の歯科医師による診断と管理があって初めて、安全かつ確実な結果が得られます。

安さや手軽さだけに惹かれて歯科医師を介さないマウスピース矯正を選ぶことは、将来的に大きなリスクを抱えることにつながります。

患者様には「歯並びの改善は一生に関わる大切な医療」であることを理解していただき、必ず歯科医師による適切な治療を選んでいただきたいと思います。